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若者でにぎわうレンガ通りの広場を舞台に、高校生くらいの少女と少年が繰り広げた追っ駆けっこは、
途中で追われていた少女が不意に姿を消したことで収拾し。
可愛いお顔を鬼のように険しく尖らせていた少年は、
そんな彼をこそ追っていた帽子のお兄さんに促されてやはりどこへともなく立ち去って。
そして
「アタシが何したっていうんですか。」
元は何かしらの行事か工事の拠点だったらしい、
金網のフェンスに囲まれた空き地の奥向きにポツンと在す、
雨ざらしの末に古びて煤けた小さなプレハブの事務所にて。
いきなり天から降ってきた羅生門の黒獣に絡めとられる格好、
見事な一本釣りでその身を空へと攫われた少女が、
古びたソファーに座らされ、4人ほどの男らに取り囲まれて尋問を受けている。
見知らぬ顔ぶれ、しかも妙に威圧感のある面々ばかりと来て、
身に迫る恐怖に怯えているかと思えば、さにあらず。
女性の立ち合いもなしの何て不法な取り調べでしょう、
訴えますよと肩ひじ張ったままと来たから、結構 度胸はある子であったらしく。
「あーもう、説明すんのもめんどくせぇ。
このままとっとと怪しい組織んでも売り飛ばそうぜ。」
「こらこら、そんなかわいい顔で恐ろしいこと言わない。」
敦のまんまのマフィアの幹部様が、
綺麗なアメジストと琥珀の組み合わさった瞳を吊り上げてお怒りの様相でおり。
そこからやや離れた壁際では、
最初に彼女へ声を掛けた、その時はなかなかに堂に入った鷹揚な態度でいた帽子の男が、
こちらも古ぼけた椅子に頽れるように腰掛けていて。
黒外套の青年からコップに注いだ水を渡され、心臓が痛いのか胸を押さえて困り切ったお顔でいる。
事情が判らない身内がここに同坐していたなら、
日頃あれほど豪胆な彼だというのに、
どれほどのこと容態が悪い中原なのかと驚きなしにはいられぬ構図だが、
「…大丈夫か? 人虎。」
「う〜〜、何か此処がずっしりと重い。」
自分の意思からやらかしたことではないけれど、
それでも自分の姿をした存在が、
主には太宰への罵詈雑言をまき散らしつつヨコハマのにぎわう街中を駆け抜けたの、
すぐ後から追いかける格好で目撃しちゃったのが結構堪えたようで。
そんな彼へ、
「…敦、頼むからしゃんとしろ。」
猫背はいかん、猫背はと、
日頃大人しくて恥ずかしがりやな少年が、そりゃあきりりと凛々しい顔をし、
背丈はちょっと低いが目上の幹部殿へ、尊大にも窘めのお言葉を向けるものだから、
「〜〜〜。」
「太宰さん。笑ってるくらいなら早く解いてやってください。」
師匠の為すことへはあまり意見はしない芥川がそうと言い出すほど痛々しい様相なのだろに。
またもやツボをつつかれたらしく、
込み上げる笑いを何とか止めんと口許をわななかせている青鯖元幹部だったりし。
せっかくの二枚目が台無しになりそうなの、何とか押さえ込んで息をつき、
「キミの気持ちは判るが、
異能特務課の担当官が来た折に実証して見せなきゃいけないからねぇ。」
当事者二人が、実は人格を入れ替えられていたのですよと、それを解いて見せる格好で
自分のアンチ異能の能力は使いたいという彼で。
“それって理屈がおかしくないですか?”
もともとはどんな人物だったかを知っている人でなきゃ、
この有様を見ても何がどうなんて判りはしなかろにと、
ついつい…中原にインしている敦が、中也の赤い髪を乗っけた頭を傾げたものの。
ということは、中也のことをようよう知っている人が来るのならそれも有りかもと、
「〜〜〜〜〜〜。」
そうと把握したそのまんま、
それって本来の中也と途轍もなく違う“敦 in 中也”だということを
知らない人にまで見せるってことなんだと気がついて。
「人虎?」
「…やっぱり早く戻してほしいなぁ。」
それは雄々しくも堂々と、しゃんと張った胸へ高々と腕を組んでいる“自分”を見やり、
日頃のやや及び腰な自分がああまで威風堂々としているくらいだ、
きっと今のこの“中也”は途轍もなく情けない様子の彼なのだろなと、申し訳なく思う悪循環よ。
そんなこんなでしおしおと萎れている約一名は、兄弟子の漆黒の覇者殿に任せておくとして、
「いいかい?
キミのその力は“異能”といって、
知ってる人は知っている、秘密裏に認可されてる不思議な力だ。」
太宰が少女への説明を始める。
一応の逃亡防止ということか、不思議な感触のする黒い布で手首をまとめられているが、
まんま膝の上へ乗っけているくらいで拘束とまではいかぬ。
それ以外は特に身柄を拘束されているわけでなく、
きっとそこまでの権限はない彼らなのだろと高を括っておいでか、
「…。」
今度は言ったことで言質を取られるもんかという構えか、
その口許をぎゅむと力みもって食いしばっておいでのお嬢さんだが、
「大方、名前を呼んで、それへの返事を受け取ることで相手と意識とへ照準を合わせ、
そのまま同時に触れた二人の人格を入れ替えることが出来る、というところかな?」
「…。」
西遊記に似たようなヒョウタンが出てこなかったかなと、
内心で余裕でそんな余話を浮かべつつの太宰の解説へ。
うんともすんとも応じないが、
パチパチという瞬きをしつつ、視線が泳いだあたり、
何とも判りやすく図星であったようで。
それを見て取った中也が、だが、怪訝そうに双眸を眇め、
「ちょっと待て。先日、敦と芥川が入れ替わっとったが、」
今は自分がその敦くんの姿となっている中也が、
まんま我がことみたいに引っ掛かっていたらしいのが、
「手前、敦という名前をどうやって知ったんだ?」
そう、今でこそ同じ師匠の教育や薫陶を受けている同士だからと
兄弟みたいに睦まじくなっている彼らだが、
ほんの直前までは確執も根深い因縁の好敵手同士として角突きあっており。
その頃の名残で、芥川は敦を今でも“人虎”と呼んでいる。
「だよねぇ。
もはや習慣になってて変えられないからだろうというほど、
人虎って呼び方が当然だというのに。」
もしかして標的とした人物の名前まで読み取れるとか?と、
だとすればもう一段ほど厄介な素養だということになるのを問われているのが
判っているのかどうなのか、
「最初はアタシも “ジンコ”って呼んで試したけど何の反応も出なかった。」
今は黒服姿の赤毛の男である敦の方を見やって、少女は悪びれもせずそうと言い、
「それで、ああそれって仇名かって気がついて。
何かヒントはないかってあちこち見まわして、
ズボンのポケットから下がってたキーホルダーに刻んであったの、
試しに呼んだらビンゴだった。」
「うう…。」
最近では登下校の折は名札を外すように、
傘の持ち手やサブバッグの表など
見えやすいところには名前を書かないようにと指導している小学校もあるそうで。
会話は当然聞こえていた敦が、
そんなところから…と声もないまま肩を落としており。
いやまあ、そんなことまで落ち度と数える必要は…と、
兄弟子さんから肩を撫でられている微笑ましい図はともかくとして。
「このところ疲れが戻らないんじゃない?」
この時点で、彼女自身が“人格入れ替え”という異能を使ったと認めたことになっており。
だが、すぐさま指摘しないのが、ある意味でちょっと小ずるい大人の交渉術。
ここでツッコめば、しまったと焦って口を噤まれかねないので、
もうちょっと深間にハマったところで後戻り出来ぬそれにしてやろうということか、
素知らぬ顔のまま、太宰はさらに話を進める。
「ほんの出来心で発動させているらしい“異能”だが、
キミはまだ制御法を知らないのだろう?」
仕組みも判ってないみたいだね。
どうやら自分の気力だか覇気だかを相手へくっつける方法で発動させているようだから、
それでげっそりと疲れたまんま、なかなか回復出来ないでいるんだよと。
それは優しい作りの目許をやんわりとたわめて説いてやり、
「自分でも判っているんだろう?
科学的な説明は出来ない不思議な力。
でも、その効能は素晴らしく、
しかもしかも、難しい呪文や修行なんて要らない手軽なもの。
それを自在に使えるようになってたって。」
あの広場界隈で、到底人には言えないけれどホントの話として、
軍警の派出所や病院、果ては悩み相談から占いの館まで、
同じような案件が持ち込まれているのを、私たちが広まらないよう抑えていてね。
「…抑えてる?」
そっかそれで大事になっていないだけだったのかと、
ちょっと心許ない顔になってきた少女へ、
「そうだよ? だってそれってとんでもない力だからね。
どっかの国の反政府組織なんかに目を付けられて攫われたらどうなると思う?」
響きのいい声が柔らかな口調でさらりと説くお言いようは、
だが、結構 危ない内容であり。
反政府組織だの攫われるだの、いきなり日常には即さない単語が出て来たものだから、
「そんな、映画じゃあるまいし。」
厨二病かと鼻で笑う彼女だが、すかさずのように突き付けられたのが、
「映画や小説の善良な作家が
そんなえぐい話をゼロから思いつくと思ってるのか?」
見た目の年頃には相応しくない、不遜なまでの居丈高な態度のまま、
もっと砕けた言いようで、“馬鹿か、手前”と言わんばかりのしょっぱそうな顔つきで。
紫色と琥珀色という極端な2つの色合いを同居させてる双眸を、
思い切りしかめて見せた少年が、
そんな辛辣な言いようを差し挟んで来たのであり。
「え?」
不意を突かれ、思考が止まりかかった少女へ、
先程から話しかけて来ていた美人なお兄さんが少々寂しげな表情になって伏し目がちになり、
「確かに思いつくことは出来るかもしれないが、
ヒントとなったのは過去の事件を調べてって場合が多い。詳細に至っては尚更にね。」
白い少年、中身は彼女が入れ替えた赤毛の男の言いようへの裏づけを付け足して、
「君らの年頃じゃあ覚えてないかもしれないが、
日本人ジャーナリストがテロ組織に攫われて、
ネット動画で何億もの身代金を要求されてって悲惨な事件も結構あっただろう。」
中東やアフリカといった地域では、
中学校が武装したテロ集団に襲われて、生徒たちが誘拐された事件も多々あって、
その子らは殴られながら人の殺し方を学ばされ、ゲリラとして無理やり育てられるそうだ。
日本じゃあ起こりえないような大胆不敵、残虐な事態が、世界中で現に起きてる。
そういったことを起こす組織の情報網の端っこは、
案外と平和な日々を送る我々の身近にも垂れていて、
国内のそこここで行方不明になった人の中には、異能目当てで攫われた人もいるかもしれない。
「そんなのって…。」
「我々が君をあっさりピンポイントで探し当てたことから、不可能じゃないってことは判るだろ?」
「…っ。」
同じように、いやいやもっと高度な方法で、
キミを誰にも怪しまれないように攫ってしまい、
そのまま遠い異国の地へまで連れ去るなんて存外簡単なんだよ?
「そうして、敵対組織の重鎮と仲間の人格を入れ替えるようにと命じられ、
成功したらもう用済みだ、秘密を知ってる以上生かしては置けぬと
身元不明な遺体となって発見されるなんて末路はいやだろう。」
最初の穏やかな導入部から、その語り口調は一貫して変わらない太宰だが、
だからこそ、するすると紡がれる話は
少女の立場が 放っておけば空恐ろしい事態に直結しているのだということを
年端のいかぬ彼女にも それは飲み込みやすく伝えているようで。
当初の負けん気の強そうだったしかめっ面はどこへやら、
落ち着きなく視線を泳がせてから、
再び太宰の方を見上げると、おずおずと訊いたのが、
「…あたしどうなるの?」
殊勝な声音で恐々と訊いてくる。
お兄さんがたの順を踏んだ説得へ、もはや抵抗する気力さえないらしく。
どうやったら守ってもらえるの?と縋るような顔をしている彼女であり。
「うちのボスも欲しがってる人材なんだがな。」
「それへは応じられないね、何か敦くんへ意地悪云ってるみたいで辛いんだけど。」
「そんな殊勝なタマか、手前はよ。」
太宰と中也の間でのそんなやり取りが挟まってから、
「異能特務課からの達ての依頼でもあるし、今回はこっちを優先してもらうよ。」
被害に遭った人の特定は、そっちの筋の公安課が進めてる。
我々が君を探し当てたのへ使った手法、
あの広場周辺の防犯カメラの映像をそれは詳細まで分析する単純な手法だが、
最近の防犯カメラには画素がとんでもないものも使われているから、存外いいヒントがいっぱいでね。
それへ君が協力してくれたらもっとてきぱきと対処も出来よう。
それからになるが、君自身もその力を制御する方法を学ぶんだ。
「真面目にあたらないと、
手に入らない力ならいっそこの世から消しちまえなんて
極端な考えを起こす人だっているからね。」
ちょっと脅すようにそんな例えまで持ち出した太宰だったのへ
“そういうところが胡散臭いんだよな、こいつ。”
というかそれこそが本性かもなと、
鼻で笑った表情がまた、何とも言えぬ貫録を呈している敦くん、じゃなくって中也さんであり。
「ともかく、とっとと元に戻さんか。」
「えー? さっきも言ったじゃない。
特務課の人が来るまでは状況説明のためそのままでいておくれよ。」
異能まつわりな今回の騒動、
太宰としては、解決への対処自体より
不快な目に遭っている中也の困惑ぶりを眺められることの方へ、
関心偏りまくっているらしく。
怜悧な頭脳派の合理主義者と、実直で人望厚い人情派というほどに、
タイプがまるきり違う者同士ということで、
普段からも気に食わねぇと角突きあっておいでの二人。
人格や人性といった深いところでは信頼し合っているのだろうに、
隙あらば相手に噛みつき突っかかりと、剣突き合わずにはおれぬ相性は何ともし難いようで。
こたびのこの騒ぎへの対応、その段取りを太宰が組んだこともあり、
ここまでで既に舵取り役の彼の想いのままの様相を呈しているわけだが、
“……。”
不自由な身になっているのが自分だけならともかく、
彼のせいではないというに、いろいろな方面へ“ごめんなさい”と勝手に項垂れているらしい
虎の子の少年なのが気になってしょうがなく。
その敦くんの風貌を、なかなかに落ち着き払ったそれへと沈ませ、
柄にない沈思黙考巡らせてから。
ここへやって来る異能特務課の方々からだろう、携帯への入電があったのへ太宰が応じる隙をつき、
「…女、ちょっと聞け。」
「はい?」
見かけは少年だが中身は違う、
ただのお兄さん以上に何かと充実したお人らしいと重々把握したらしく、
私、戻し方知りませんがと、おどおどと応じた少女へ、
何やらぼそぼそと耳打ちをした敦、もとえ中也さん。
そのまま、敦を宿した自分と芥川へ向けて“来い来い”と手招きをする。
顔を見合わせてから、揃って寄ってきた二人だったのへ、
このお顔でそれをすると、聖なる慈悲が滲み出して来そうな
何とも言えぬ神聖な香のする“いい子だな”という笑顔になってから、
「ちょっとだけ緩めてやれ、痛いってよ。」
「ああ。はい。」
疑いもせずに手首をまとめた捕縛の異能を芥川がやや緩めた途端。
儘になった少女の手が上がり、寄って来た二人の腕に触れ、
「アツシ、アクタガワ。」
単調な呼び方をされて。
それへ、不意を突かれたそのまま “え?”とついつい返事をした彼らだったものだから、
なんてまあまあ進歩がないというか、戦闘中以外は案外と油断しまくりだというか。
「あ…。」 「え?」
淡い光に包まれたところを見ると、二人が何だかややこしいシャッフルをされたようで。
「ちょっと中也、何してるの。」
そちらもある意味油断していたらしい、想定外の運びへギョッとした太宰を指差し、
今は自分の姿の中へ納まっている芥川へ、鋭い一声が飛ぶ。
「芥川くん、太宰さんの腕を捕まえてっ」
声は聞き馴れた敦のそれだが、張りと気迫の籠りようが違ったし、
何と言っても表情がそりゃあ朗らかで楽しげなそれ。
もしかしてまんま中也の顔だったなら、
ちょっとは企みごとを滲ませた怪しい気色も乗っていたかもしれぬが、
双眸たわませた敦のそれはそれは楽しそうなお顔は、
強かな邪気なぞ一切滲まない、何か楽しい思い付きに協力してと言わんばかりのそれだったため、
「あ、うん…。」
不意を突かれたこともあり、
瞬発力よく踏み出したそのまま、命じられたとおりに手が出ていたのは、
もしかして体の持ち主に染みついていた脊髄反射の賜物だったかも。
歩み寄ってきた太宰の腕を取ったところで、
すかさずのように次の指示が飛ぶ。
「腕と襟を掴んで引き寄せながら、自分だけ後ろを向いて背中へ添わせろ。
足は靴底をすべらせて行って相手の靴の横っ腹を側面で叩いて払え。」
「…っ。」
今度のはすっかりと命令口調のそれだったが、
何を言われているものか、するすると頭へ入って来るそのまま、
さっきまではソファーで項垂れていたはずの、赤毛に帽子を乗っけた小さなマフィア幹部様。
そりゃあ切れのいい動作で指示通りに小柄な体が機能しており。
身長差のある相手に身を添わせることで、懐ろへもぐり込んだ格好になったと同時、
「ちょ、何を…。」
勢いよく床をすべってきた足が相手の足の側面をパンッと叩いたのが、
丁度小外刈りを掛けられたような按配となり、
バランスを崩して倒れ込みかかる太宰なのへ、
「腰で相手の腰を小突きあげて、
上体を倒しながら背中へ相手を背負い上げろ。
そのままごろんと向こう側へ転がし落とせっ!」
「はいっ!」
なめらかに続いた指示通りの動きを見せた、中也の身を借りた芥川。
あまりに突然の運びだったのと、中身が誰かを最優先した太宰だったのとが相俟って、
一連の流れが危なげなく展開しての、
ずだんと勢いよく、大柄な男が小柄な体躯から転げ落ちて投げ技が決まる。
「あ…。」
小柄だったことが幸いし、さほど高いところから落とされてはない。
太宰自身も格闘技の心得はあったので、とっさに受け身をとっており、
痛いというよりビックリしてのこと、呆気に散られて目を見開いていて。
此処に居合わせる顔ぶれの中、一番上背のあった男をあっさりと転がした事態へ、
室内の空気は一瞬しんと静まり返ったものの、
「どうだ、気持ちいいだろうが。」
「…はいっ」
うわ、目がきらっきらしているよと。
傍らで、今は芥川くんの体にお邪魔している敦が、
さっきまでは自分が宿っていた中也の鮮やかな活躍(?)へ目を見張っていたりして。
そう、本来の体でならやはり無理だったかもしれないが、
今彼が“入って”いるのは、小柄だがそりゃあガッツリ鍛え上げられた中也の体だ。
言われたとおりの流れるような動作も的確にこなせたし、最後には楽勝で背負うことまで出来たのであり。
異能を使ってではない薙ぎ倒しがよほど嬉しい仕儀だったのか、
それはにこにこと笑う“彼”は、外観が中也であるにもかかわらず、
何の気どりもないせいか、随分と幼くさえ見えて。
とはいえ、
「な、何で。」
いくら機能が備わっていても、コンピュータで言うところのOSがちゃんと連動しなければ、
体へ正確に指令を伝えなければこうまでの見事な動作を導き出せるはずがない。
素人に先程の指示を出したとして、こうまできっちり反映させられたものだろか。
格闘馬鹿ではないけれど、体の機能という点は熟知している太宰にしてみれば、
各所の均衡をバランスよく噛み合わせさせてこそ上手くはまる“投げ技”だったこと、
それをこなしたのが、殴る蹴るという直線の攻勢くらいしか知らぬだろう、
それ以上は異能の幻獣での攻撃でまかなう芥川だったことが、意外でならないらしかったけれど。
片襟を掴まれての転がされた恰好のまま、
丁度真正面にすくりと仁王立ちする少年へ“何で”と問いかければ、
敦の顔した中也さん、ふふんと自慢げに笑って曰く、
「羅生門があるんだ、使う機会があるとは思えなかったがな、
基礎作りの一応の基本として受け身や何やを教えたついでに、一通りの技も仕込んであんだよ。」
自分が預かっていた間のお勉強の中、
それは真面目について来たいい生徒だった彼は、それらをその身のうちへちゃんと染ませていたらしく。
日頃の身の処し方なぞ見ておれば、そうであることは一目瞭然だったそうで。
「おら、次は巴投げ行くぞ。その体なら何でも出来るから、今のうちに全部浚っとけ。」
「はいっ!」
「たんまたんま、判ったから、お願いだから元に戻ってください。」
最終場面で形勢逆転、技あり一本というところか。
慌てふためく太宰を前にし、
「え〜〜? だってぇ、異能特務課の人が来るまではぁ。」
「今更敦くんぶるのは止めて。」
「…ボク、そんなですか?普段。」
「そっちも芥川くんの顔でしょげないで。」
to be continued. (17.06.15.〜)
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*なんか変なノリの芥川くんですいません。
それだけ感動しちゃった体感だったということで。
何せウチは中也さんびいきのサイトですきに…vv
もうちょっとだけ、おまけに続きますvv

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